ASMは、全国から有名ショップが集まり速さを競うREVSPEED筑波スーパーバトルで、2003年以降3年連続コースレコードを更新・3年連続クラス優勝しています。1年目はTODA POWER+965kgの軽量ボディを組み合わせ史上初のNAチューニングカー1分切りとなる59秒954を記録、2年目はパワー・トラクション・エアロダイナミクスの3要素をバランスした現在に通じるチーム体制を確立して59秒283を記録、3年目は空力性能をさらに向上した新型エアロパーツによるダウンフォースとダンパーセッティングで58秒063を記録しました。「V4確実」と周囲から見られる中、新たな領域へとASM筑波スペシャルを進めるべく大きな変更に取り組みました。 |
チャレンジ4年目のテーマは「筑波スペシャルからの脱却と強さの追求」です。 |
過去3年、ほぼ筑波サーキットだけでテストしてタイム更新してきましたが、こんなことを感じ始めました。「筑波以外でASM筑波スペシャルは通用するのか?筑波で速いのはホームだから速いだけで、国際サーキットでは通用しないのではないか?ASM筑波スペシャルはタイヤに頼ってタイムを出しているのではないか?」これらの自問に答えを出すため、筑波サーキットでの走行は最終的な確認だけにしてセッティングは鈴鹿サーキットで行なうこと、フレッシュタイヤ投入を行なわずMコンパウンド1セットのみでテストを行なうこと、この2点を条件にしてASM筑波スペシャル2006の開発に着手しました。S-GT2006年シーズンの開幕直前の各ワークスマシン達の去年からの変更点に目を凝らし、2006年は空力の最大のポイントである「床」の形状に着目してエアロの基本形状を決定、2006年5月にエアロパーツ開発に着手しました。 |
大きなポイントは3点あってまずは大型リヤウィングです。ドラッグを最小限に抑えつつしっかりとダウンフォースを生み出すウィング断面形状は、実は2004-2005で使用したI.S.Designリヤウィングを大型化したものに酷似しており、市販製品を基にレギュレーションのないチューニングパーツとして特化したものとも言えます。ウィングの効果を全てトラクションに変えるため、カーボンで製作したステーBOXをボディに直接固定しました。リヤウィングが生み出すダウンフォースを基本としてフロントセクションの形状を決定しました。前床がバンパー前側にせり出して、その上にフロントバンパーを固定すると言うチューニングカーとしてはほとんど見ない手法で固定しました。床をガッチリと固定することで床が生み出すダウンフォースを逃がさずボディを押さえる力に変えつことができ、フロントリップ部分には人が乗れる強度・剛性を確保しました。これらはいずれもS-GTの世界では当たり前の手法であり、「チューニングカーにレーシングカーの正しい手法を取り込む」と言うASMコンセプトの一環として採用しています。ダウンフォースを向上するため、フロントバンパー開口部から取り込んだ空気をボンネットに追加されたダクトを通過して上方へ排出し、ダウンフォースを向上すると共に冷却効率も向上しました。サイドステップにはフロントフェンダーから排出された空気を床に巻き込まないように、後方へ導くフェンスを追加しています。 |
エンジン・サスペンション・ボディは全て2005仕様から踏襲しました。大きく変更したのはエアロパーツだけで、2006仕様ではメカニカル部分に一切手を加えていません。一見マイナーチェンジとも取られかねない内容ですが、逆に言えば58秒フラットを記録した2005仕様は唯一空力パーツだけがストリート専用品の領域を出ていなかったとも言え、今回はそこに手を加えたと言うのが正しい評価です。 |
暑さが残る9月16日にASM筑波スペシャル2006をシェイクダウンしました。今年で最後のF1開催となるホンダの聖地と言える鈴鹿サーキットにASM筑波スペシャルを持ち込みました。2年前、たった1度だけこのサーキットでASM筑波スペシャルを走らせたことがあります。羽根選手からはボディ性能の低さを酷評され、オイルタンク問題で全く走行できずエンジン始動確認程度にしかなりませんでした。あれから2年、ピーキーで繊細だったASM筑波スペシャルは2年の間に徐々に強さを身につけました。リヤウィングの角度変更、バネレート変更、減衰調整等セットアップを繰り返して最終セッションでアタック開始。春先に下ろしたUSEDタイヤを使用して、2分18秒8と言うNAチューニングカーコースレコードを記録しました。仕様変更、再度コースインして更なるタイムアップを狙って走行開始しましたが、車が帰って来ません。嫌な予感がスタッフの脳裏をかすめながら食い入るようにモニターを覗きこんでいると、130R手前で走行停止したASM筑波スペシャルが映し出されました。コースレコード樹立とトラブルによるマシン停止、思えば今シーズンのタイムアタックを象徴する出来事がシェイクダウンに凝縮されていた気がします。停止した原因は電気系のトラブルで、エンジンには問題ありませんでした。 |
2回目のテストは10月25-26日に岡山国際サーキットで実施しました。デフの仕様違い、足のセッティング、空力セッティング等多くのメニューをこなすため、トラフィック条件が良くて路面ミューが筑波と酷似したこのコースを選んでいます。横浜から移動にテスト前後で2日を費やすが、鈴鹿での速さが岡山でどれぐらいのものかを見てみたい気持ちと、テストメニュー消化を優先しました。順調に特に大きなトラブルもなくメニューを消化して、2日目の昼、路面条件も悪く気温も高い中で1分38秒860を記録、これもNAチューニングカーコースレコードを塗り替えてのコースレコードではないでしょうか。しかも同じようなタイムで周回します。どこを走っても速い絶対的な強さを身につけつつあることを強く実感したテストでした。使用したタイヤは前回の鈴鹿テストと同様半年前に下ろした中古タイヤを使いきり、MコンパウンドNewタイヤを今シーズン初めて投入しました。 |
3回目の走行は、ASMのお客様へのASM筑波スペシャル2006の披露とも言えるASM筑波サーキットアタック(ASM筑波サーキット走行会)での10分×4本の走行でした。TODA 2.4Lエンジン音と2006仕様GTエアロを身にまとった外観は、お客様の目にどう映ったのでしょうか?S2000ユーザーが思い描くS2000を追求したい、そんな思いで取り組み始めたプロジェクトだけに反応が気になりますが、みんなに好評で満面の笑みで車を見ている表情が印象的でした。お客様の声援が何よりも大切です。テストらしいテストは行なわなかったが、唯一、センターフロアを装着しています。ダスティなコースを走り抜けるASM筑波スペシャル2006、そのテールから巻き上げられる埃の高さを見て、床下整流が高レベルになったことを確信しました。 |
4回目のテストは再び鈴鹿、筑波スーパーバトル本番に向けて実質的な最終テストと位置づけました。9月の鈴鹿シェイクダウンと10月の岡山国際の両テストで出た問題点への対策をして臨み、シェイクダウンで記録したNAチューニングカーコースレコードの更なる更新とセンターフロアを含めた空力バランスのセッティングが目的です。午前中から大きなトラブルもなくテストメニューを消化し、夕方最終セッションでタイムアタックしました。使用したタイヤは岡山テストから下ろしたUSEDタイヤです。気温が徐々に下がってくる中、ASM筑波スペシャル2006が記録したタイムはターボクラスのチューニングカーの領域に達する2分16秒652と言う新コースレコードを記録しました。 |
鈴鹿テスト終了後、数多くのテストを繰り返してきたエンジンのチェックと更なるパワーアップの可能性を探るため、エンジンを降ろして戸田レーシングに送ります。過去3年のデータと今年のテストデータから導き出された結論は、 シフトアップして回転が落ちた時の再加速性能向上のため、コンプレッションを上げてのパワーアップとマップ変更を行いました。結果としてトルク特性が更に下振りになり、ピークパワーは10馬力向上しています。車体側では、テスト時には安全性のために必要と考えて装着していたヘッドライト撤去し、オイルクーラーも厳しく油温をモニタリングすることにして外して軽量化しました。テスト結果が良好だったセンターディフューザーはアルミ板からカーボン製に変更、エキマニ遮熱板は薄いアルミ製にして軽量化です。10馬力のパワーアップと14kgの軽量化を行い、最終テストと筑波スーパーバトル本番に向けて出発しました。 |
最終テストはもちろん筑波サーキットです。2005年は事前テストで57秒9を記録し、その再現を目指した筑波スーパーバトル2005ではわずかに及ばず58秒063に終わりました。今年は30分×2本のASM専有走行で、使用タイヤは岡山・筑波・鈴鹿で使用したUSEDです。ニューを消化する中でASM筑波スペシャル2006は既に58秒3を記録しました。去年GSコンパウンドで1周しか出なかったタイムを、スリップサインまで出ているMコンパウンドUSEDタイヤで楽々と記録し、絶対的な速さとタイヤを選ばない強さを身につけたことを実感しました。 |
そしていよいよGSコンパウンドNewタイヤを投入してのタイムアタック開始です。アウトラップを周回してバックストレートで加速開始、最終コーナーを抜けてPIT前を駆け抜けるASM筑波スペシャル・・・速い!!過去に見たことがないフォーミュラを連想させる動き・姿勢で最終コーナーを脱出してあっという間に1コーナーに到達します。空力を味方につけて絶妙のセッティングなセッティングによる安定したブレーキング後、鋭くコーナーを駆け抜けます。ダンロップ進入から2ヘアまでの音も今までにない切れ味を感じます。バックストレート、3速、4速、5速、6速、5速にシフトダウンして最終コーナーに進入、スーパーラップを誰もが確信した瞬間!!・・・スローダウン・・・。チーム全員が凍りつきました。4年間を通じてはじめてのエンジンブローです。 |
原因はコンプレッションを上げたエンジン本体ではなく、オイルポンプパーツの破損でした。普通ならここで万策尽きて終了ですが、「強さ」をテーマにした今年のASMは違います。6月、こんな緊急事態に備えて用意していたスペアエンジンへ換装することを決断し、PITに車を移動して作業開始しました。10馬力は失ったけど、現場には戸田レーシング矢野さんがいます。岡山の戸田レーシング島田さんからの指示を仰ぎつつ、新エンジンのいい部分をスペアエンジンに組み付ける作業を行なって、エンジンを載せ替えました。朝10時に作業スタートして全ての作業を終えたのは夜9時、チームみんなで一緒に食事です。「やれるだけのことはやった。」と言う達成感がみんなの中に満ちて、翌日の筑波スーパーバトルをチーム全員が楽しみにしていました。加藤寛規選手は「57秒には確実に入る。でも何がどう効いて57秒に入るのか、頭の中で組み立てができない。」と口にしていた。ハンドルを実際に握っているから分かる確信と不安、それはチーム全員の本心を代弁したものだったかもしれません。 |
12月7日、REVSPEED筑波スーパーバトル2006本番です。勝負をかけるのは1本目、過去3年の実績を見ても2本目にタイムを期待できる路面状況はありません。朝の練習走行はUSEDタイヤで既に58秒台を連発、昨日載せ替えたエンジンに不安は消えました。加藤選手のコメントを基に戸田レーシング矢野さんがリセッティングして10馬力あったパワー差を実際には4〜5馬力程度の差まで縮めます。ここで昨日1周を計測できなかったGSコンパウンドタイヤで57秒に入れて、手ごたえを掴みました。チームにもドライバーにも過去3年にない緊張感が漂っていましたが、それは不安ではなくスーパーラップを期待する気持ちの高ぶりから来る心地良い緊張感でした。 |
1ヒート目はタイヤ交換1回行なって2回のタイムアタックを実施します。アタック1本目。手元計測で57秒5を記録!なのに、実況の鈴木学さんはモニターから目を離していてスーパーラップの存在に気づきません。筑波スペシャルが1ヘアを立ち上がった頃「おぉっと?ご、ご、57秒425〜!?」驚きの声でのアナウンスが筑波サーキットに響き渡り会場全体がどよめきます。その後も好タイムを記録するがタイムアップはできずピットイン、多くの観客が注目する中エアジャッキで車体をすばやく上げてタイヤ交換を実施して即コース復帰しました。今回は実況マナピーもその瞬間を見逃すまいと、アウトラップ、1周目、2周目とクリアを確保するためにゆっくりと走行するASM筑波スペシャルの動きを逐一実況してくれます。観客の多くは2Fに上がり、筑波スペシャルの動きにみんなが集中していました。 |
そしてタイムアタック開始です。1コーナー、1ヘア、ダンロップ、2ヘア・・・TODAエンジンの咆哮が筑波サーキット全体に響き渡り、見学者みんなが固唾をのみます。最終コーナーに進入、コーナーリングスピードが速い!!「ご、ご、57秒398〜?!まだタイムアップするのか?ASMは!なんなんだ、この車は!!!」会場は一瞬静寂に包まれ、その後どよめきが広がりました。ところが車から降りた加藤選手に喜びの表情はありません。1回目のアタックで57秒4を記録した周回、何と他車に引っかかっていたと言うのです。もしかしたら57秒2かそれ以上のラップタイムが期待できた幻の周回でした。2ヒート目、タイムを上げようとスタンバイしていたが路面状況は刻々と悪化し、タイムアタックをするも57秒9にしか届かず、2006年の筑波タイムアタックに幕を閉じました。チームの力だけでなく会場の声援が筑波スペシャルのレコード樹立に繋がった気がします。 |
ASM筑波スペシャル2006は、FR/MR-NAクラス4連覇、NAチューニングカーコースレコード更新57秒398、最高速度188km/hのNAながら、総勢77台の強豪チューニングカーが居並ぶ中、総合7位というリザルトを残しました。筑波生まれ/鈴鹿育ちのASM筑波スペシャル2006は、ターボ勢に匹敵する速さと鈴鹿でも岡山でも速いフィジカル面の強さを手に入れました。そしてNAチューニングカーとしては驚異的な、誰もが不可能と挑戦すら諦めてきた56秒の壁は、すぐ目の前に立ちふさがっています。 |
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ASMプロジェクトリーダー 金山 新一郎 |
エピローグ |
筑波スーパーバトルを終えたASM筑波スペシャル2006を鈴鹿サーキットに持ち込みました。筑波53秒を記録したHKSランサーなど強豪が集うショップクラスでの走行です。そこでASM筑波スペシャル2006が記録したタイムは、NAチューニングカーコースレコードを大幅に更新する2分12秒226、4WDターボクラスに匹敵し、おそらく今後数年にわたり破られることのないスーパーラップを静かに記録して2006年の走行スケジュールを終了したことを付け加え、レポートを終わります。 |